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受領委任の取扱いを中止された柔道整復師が、受領委任の再開を申し出て不承諾となった判例です。個別指導、監査に臨む柔道整復師の方は、整骨院、接骨院の指導監査に強い弁護士にご相談下さい。

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個別指導、監査の判例(1):受領委任の取扱いの中止と再開申出

整骨院の個別指導、監査に強い弁護士の鈴木陽介です。

個別指導・監査には、弁護士に同席させるべきです。


ここでは、柔道整復師が個別指導を受け、監査に移行し、受領委任の取扱いが中止され、その2年後、受領委任の再開の申出を行ったところ、不承諾とされたケースでの、当該不承諾処分の取消請求事件の判例(平成21年1月19日札幌地方裁判所の判決)のご説明をします。説明のために、事案の簡略化等をしています。

整骨院・接骨院の個別指導と監査については、以下のコラムもご覧いただければ幸いです。

【コラム】整骨院、接骨院の個別指導と監査の上手な対応法

受領委任の再開申出の不承諾の行政処分性を判断した判例


 1 事案の概要

柔道整復師として柔道整復業を営む原告(平成2年柔道整復師免許取得)が、平成19年3月7日付けで柔道整復施術療養費の受領委任の取扱いの申出(以下「本件申出」といいます。)をしたところ、同年8月29日付けで柔道整復施術療養費の受領委任の取扱いを不承諾とする旨の通知(以下「本件不承諾」といいます。)を受けたため、本件不承諾は行政裁量を逸脱した違法があると主張して、本件不承諾の取消しを求めた事案です。

事案の概要は以下のとおりです。

1 受領委任の取扱いの中止に至る経緯
原告は、平成13年11月22日、北海道社会保険事務局長、北海道知事などに対し、協定に定める事項を遵守することを確約し、北海道社会保険事務局長及び北海道知事は、原告について、受領委任の届出に係る登録をした。

北海道社会保険事務局長及び北海道知事は、平成16年11月19日、施術に関して帳簿及び書類を検査し、説明を求め、又は報告する必要があるとして、原告に対する個別指導を共同で実施し、協定に違反する行為として以下の点を確認した。

@ 申請書の作成について
原告は、被保険者が柔道整復施術療養費支給申請書の「受取代理人の欄」に署名できない場合に、被保険者の押印を得ていなかった。
A 療養費の算定、一部負担金の受領等について
原告は、施術に要した費用の額にかかわらず、独自に設定した定額を受領していた。
B 施術録の記載及び整備状況について
負傷名及び負傷年月日等並びに負傷原因及び初検時の所見等について、診療録の一部につき、かかる記載を遺漏していたものがあり、施術録の記載に不備があるものがあった。また、施術内容及び経過所見等について、施術録にその記載をせず施術録とは別の用紙にメモ書きしていた。なお、原告は、同メモ書きを施術録とは別に保管していた。

北海道社会保険事務局長及び北海道知事は、施術録が整備されていないため、施術内容の妥当性、不正・不当な請求の有無等の確認ができないとして個別指導を中止し、メモ書きの内容を施術録に転記して整理するよう指示した上で、後日、改めて原告に対する監査を行うこととした。

北海道社会保険事務局長及び北海道知事は、平成17年2月18日、原告に対する監査を実施し、協定に違反する行為として以下の点を確認した。

@ 療養費の算定、一部負担金の受領等について
施術録の一部負担金欄は「3割」と表示されていたが、実際には一部負担金を定額で受領していた。
A 施術録の記載及び整備状況について
協定において定められた様式には、被保険者の氏名等しか記載されておらず、基本的な事項(傷病名、原因、症状経過、施術処置等)については、独自の資料を添付代用し、パソコンに入力したデータで管理していた。なお、個別指導後に原告が整理した施術録の記載は、施術の内容、経過等につき、一部記載不備があったが、概ね適正であった。なお、原告は、個別指導後、監査までの間に、上記メモ書きのうち、その当時治療を続けていた患者以外の者のものをすべて廃棄した。そのため、同メモ書きの内容と施術録の記載とを照合することはできなかったが、北海道社会保険事務局長及び北海道知事が、個別指導時にコピーを作成していた患者のメモ書きの内容と原告が整理した施術録の記載とを照合したところ、1名の患者の施術録について、メモ書きに記載されていなかった所見が記載されていた。

監査あるいはそれ以前に実施した患者に対する調査において、原告による不正・不当な請求の存在は確認するには至らなかった。

北海道社会保険事務局長及び北海道知事は、監査の結果、原告について、以下の事情を考慮して、平成17年3月1日付けで柔道整復施術療養費の受領委任の取扱いを中止することとし、その旨の通知をした。

1 協定第3章15(療養費の算定、一部負担金の受領等)に違反する。
2 協定第3章17(施術録の記載)に違反する。
3 施術録の記載について、施術録に代わるメモ書きは不十分ながら作成していたものの、施術録作成後にメモ書きを廃棄するなど、説明責任を果たす姿勢が見られなかった。
4 3の結果、施術内容と請求内容の整合性を確認できなかった。
5 原告は、協定に定める事項を遵守する姿勢が薄く、自らの恣意的な発想で事務を取り扱い、施術内容の確たる記録がないまま長期間(平成14年3月から)にわたり施術料を請求していた事実は、協定に定める事項を遵守しなかったときに該当する。


2 本件不承諾に至る経緯
原告は、北海道社会保険事務局長及び北海道知事に対し、平成19年3月7日付けで「確約書」及び「柔道整復施術療養費の受領委任の取扱いに係る申出(施術所の申出)」を提出し、原告による受領委任の取扱いを再開するよう申し出た。

北海道社会保険事務局長及び北海道知事は、原告が、受領委任の取扱いの中止後2年を経過したのみであり、かつ、原告による療養費の請求が不正・不当であった可能性を否定できず、その金額及び件数の割合は不明であったとして、受領委任の申出を再承諾できる場合に該当するとは認めず、原告に対し、原告が、受領委任の取扱いの中止を受け、原則として中止後5年を経過しないときに該当するとして、平成19年8月29日付けで本件不承諾をし、これを通知した。

 2 争点及び裁判所の判断

争点1 本件不承諾が行政処分に当たるか否か
【裁判所の判断】
行訴法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」とは、公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいい、具体的には、@法を根拠とする優越的地位に基づいて一方的に行う公権力の行使であるか否か、A対象者の権利等に直接影響を及ぼす法的効果を有するか否かにより判断すべきである。

受領委任の取扱いは、被保険者が施術者に対して一部負担金のみを支払い、施術者が被保険者に代わって療養費を保険者から受領するというものであり、療養費の支給がされる場合についても、療養の給付(現物給付)がされる場合と実質的に同様の仕組みにするものであるということができる。

柔道整復師は、応急手当の場合には、医師の同意なく脱臼又は骨折の患部の施術ができるものとされており(柔道整復師法17条ただし書)、このことからすれば、同法は、柔道整復師が特に緊急性を要する応急手当等のような一定の場合において医師の代替を勤めることを予定しているものと考えられる。そして、そのような緊急の場合にこそ、利用者にとって軽い負担で速やかな診療を受けられることが必要であることからすれば、国民の生活の安定及び福祉の向上(健康保険法1条)、社会保障及び国民保健の向上(国民健康保険法1条)に寄与することを目的とする両法は、被保険者が保険医療機関等以外である柔道整復師の施術を受ける際、保健医療機関等と同様に一部の負担金のみを支払うことによって施術を受けることを否定しているとはいえず、むしろこうした取扱いをも想定しているものとみることができるというべきであり、それを具体化し補完するものとして、局長通知等の通達により受領委任の取扱いが定められ、その支給要件が厳格かつ具体的に定められたというべきである。

そして、このように、被保険者の療養に要する費用の負担を一部の負担金でよいとすることは、「療養のために必要な費用にかかる資金」を貸し付けること以上に、被保険者の福祉の増進のために効果があると考えられるから、健康保険法150条、国民健康保険法82条2項の「必要な事業」の一環としてなされているものとみることができるというべきである。

また、受領委任の取扱いは、保険者と柔道整復師との間の契約・協定という形式を採ってはいるものの、国民皆保険制度が採用されている我が国においては、患者が保険診療できるものに対しては保険診療を期待して診療を受けることは公知の事実であるから、事実上、柔道整復師が受領委任の取扱いを申し出ないことはほとんどないことが推認される。そして、受領委任の取扱いを受けようとする一定の柔道整復師は、事務局長及び都道府県知事に、受領委任の申出をしなければならず、事務局長及び都道府県知事は、申出を受けたときは、一定の除外事由がない限り、その申出を承諾し、その旨を当該柔道整復師に通知することとされている。

そうであるとすれば、かかる受領委任の取扱いを受けられないことは、柔道整復師にとってその施術所を維持することが困難になるおそれすら生じ得るものということができるのであり、仮に、その除外事由がないにもかかわらず、恣意的に受領委任の取扱いが拒絶されたような場合においては、そのような行為が違法であるとして単に金銭的な賠償を認めるだけではこれを実質的に救済することは困難というべきであり、受領委任の取扱いの拒絶(不承諾)自体の取消しといったより適切な救済手段が認められてしかるべきと考えられる。

これらの事情を考慮すると、受領委任の取扱いは、局長通知等の通達によってその具体的な要件が定められたことにより、健康保険法及び国民健康保険法上の制度を補完する具体的な仕組み、すなわち法令に基づく制度として構築されたものというべきである。そうすると、受領委任の申出に対する不承諾は、単なる私法上の行為であるということはできず、法を根拠とする優越的地位に基づいて一方的に行う公権力の行使であるというべきであり、かつ、本件不承諾は、柔道整復師が、保険者から療養費を受領できるという地位に直接影響を及ぼすものであるから、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるものと解するのが相当である。

争点2  本件不承諾の裁量権の範囲の逸脱・濫用の有無
【裁判所の判断】
原告による本件申出は、受領委任の取扱いが中止されてから2年以上5年未満になされていることから、北海道社会保険事務局長及び北海道知事は、不正若しくは不当な請求の金額又はその金額及び件数の割合が軽微であると認められる場合には、原告の受領委任の取扱いを再承諾することができるところ、原告による不正・不当な請求の存在自体は確認するに至っていない。そうすると、原告の本件申出が、直ちに再承諾できる場合に該当しないとまでいうことはできないが、再承諾するか否かは、北海道社会保険事務局長及び北海道知事の裁量にゆだねられているものと解され、北海道社会保険事務局長及び北海道知事が、その裁量を逸脱又は濫用して本件不承諾をした場合に限り、違法となるというべきである。

協定においては、一部負担金を減免又は超過して徴収しないこと、受領委任に係る施術に関し、必要な事項を記載した施術録を作成し、5年間保存することとされているが、原告は、一部負担金について、施術に要した費用の額にかかわらず、独自に設定した定額を受領していた上、診療録の一部につき、負傷名及び負傷年月日等並びに負傷原因及び初検時の所見等についての記載が遺漏しているなど、施術録に記載しておらず、また、施術内容及び経過所見等については、施術録にその記載をせず、施術録とは別の用紙にメモ書きしていたことが認められ、さらに、原告が、個別指導後、監査前に、その当時治療を続けていた患者以外の者のメモ書きを廃棄したこと、個別指導後に原告が整理した施術録には、北海道社会保険事務局長及び北海道知事がコピーしたメモ書きに記載されていなかった所見が記載されていたことも認められる。

受領委任の取扱いがなされている場合には、保険者が、施術の内容や額等につき被保険者から確認することができないまま施術者より療養費の請求がなされることから、被保険者からの請求による後払いの場合よりも、不正請求や業務範囲を逸脱した施術を見逃す危険性が高いということができる。そのため、協定においては、受領委任に係る施術に関し、必要な事項を記載した施術録の作成及びその保管を求め、事後的に施術内容や療養費の請求の妥当性等を確認できるようにしたものと解される。

したがって、施術に関して独自に作成したメモ書きを保管するのみで、必要な事項を記載した施術録を作成していなかったという原告の行為は、施術内容や療養費の請求の妥当性等の確認を困難にする行為であるということができる。この点に関し、原告は、個別指導後に上記メモ書きの記載を転記したという施術録を作成しているものの、原告が個別指導後に上記メモ書きを廃棄したために、同施術録の内容が施術当時作成したというメモ書きの内容を正確に転記したものか確認することはできず、また、同施術録には、メモ書きにない所見が記載されていたことなどからすると、原告による施術内容や療養費の請求の妥当性等は確認されていないものといわざるを得ない。

以上のとおり、原告は、協定において求められている施術録を作成しておらず、かつ、結果的にも、施術内容や療養費の請求の妥当性等の確認ができなかったことなどからすると、施術録の記載等に関する原告の違反が、程度の軽微なものであるなどとはいえない。

また、協定には、一部負担金の金額を減免又は超過して徴収しない旨が明示されており、かつ、施術に関して定額料金を設定することができるというのは、長期・多部位の施術の場合に適用される制度であって、一部負担金について定額料金を設定できるというものではないにもかかわらず、原告は一部負担金を定額で受領していたのであって、この点の違反行為についても軽視することはできない。

上記の原告による協定違反の内容や程度等からすると、原告による不正・不当な請求の存在自体が確認されていないことを考慮しても、北海道社会保険事務局長及び北海道知事による本件不承諾が、その裁量を逸脱又は濫用したものということはできない。

 3 判決:結論

主文:原告の請求を棄却する。

原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。


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