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不正請求での柔道整復師の免許取消処分の取り消しを求めた判例です。行政処分(免許取消、業務停止)に臨む整骨院、接骨院の方は、柔道整復師の行政処分に強い弁護士にご相談下さい。

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免許取消・業務停止の判例(1):暴力団との不正請求での免許取り消し

柔道整復師の行政処分に強い、弁護士の鈴木陽介です。

行政処分への対応は、弁護士に依頼すべきです。


ここでは、柔道整復師が暴力団関係者と不正請求を行い、柔道整復師の免許取消処分となったケースでの、当該免許取消処分の取消請求事件の判例(平成23年7月12日東京地方裁判所の判決)のご説明をします。説明のために、事案の簡略化等をしています。

柔道整復師の免許取り消し、業務停止については、以下のコラムもご覧いただければ幸いです。

【コラム】柔道整復師の免許取り消し、免許停止、業務停止の行政処分

暴力団との不正請求での柔道整復師免許取消の取消訴訟の判例


 1 事案の概要

柔道整復師(昭和59年免許取得)が、懲役刑を理由に柔道整復師の免許を取り消す旨の処分(以下「本件処分」といいます。)を受けたことに対し、本件処分には重大な手続的瑕疵が存在するとともに、考慮すべき事項を考慮せず比例原則違反の判断をするなどしたもので裁量権の範囲の逸脱があると主張して、本件処分の取消しを求めた事案です。

事案の概要は以下のとおりです。

1 柔道整復師の詐欺事件とその後の経過
昭和59年に柔道整復師免許を受けた原告は、接骨院や病院等での勤務を経て、平成2年10月頃からは接骨院を経営して柔道整復師の業務を行ってきたが、平成13年頃から、経営する接骨院の患者数が減少したこと等を理由として、事業資金や生活費のための債務が増加していった。

原告は、平成15年頃、暴力団関係者から保険会社に対する柔道整復施術療養費の架空請求を持ち掛けられ、当該暴力団関係者について、実際には行っていない柔道整復施術を行ったものとして保険会社から柔道整復施術療養費を詐取した。その後、上記暴力団関係者から上記詐取の事実をばらすと言われるなどして更なる犯行に加わることを要求され、同人から紹介された他の暴力団員等と共謀の上、実際には行っていない柔道整復施術を行ったものと装い、自動車保険会社から柔道整復施術療養費を詐取する本件詐欺事件の犯行をした。その後、暴力団関係者から金銭を要求されるようになったことなどから、原告は、平成17年8月頃、接骨院の経営をやめ、派遣社員として稼働していたが、平成19年1月頃、本件詐欺事件により逮捕された。

原告は、さいた地方裁判所で、大要、@ 暴力団員が交通事故の被害車両に乗車していたことを利用する詐欺を企て、平成16年6月から同年10月にかけて、5回にわたり架空請求をして、損害保険会社から、交通事故による柔道整復施術療養費名下に合計47万2650円を詐取し、A 暴力団員と共謀して、平成16年11月から平成17年3月にかけて、10回にわたり架空請求をして、損害保険会社から、交通事故による柔道整復施術療養費名下に合計147万3800円を詐取したとの本件詐欺事件により判決を受け、控訴したが、東京高等裁判所で控訴を棄却する旨の判決を受け、その後、刑が確定した。

原告は、上記により刑務所に服役していたが、平成20年11月12日、仮釈放された。原告の刑執行は、平成21年1月20日に終了した。

原告は、平成21年5月16日、株式会社に雇用され、現在、介護施設である有料老人ホームの機能訓練指導員として稼働している。

2  免許取り消し処分に至る経緯
厚生労働省医政局医事課長(以下「医事課長」という。)は、平成19年12月27日付けで、各都道府県衛生主管部(局)長に対し、医療関係資格の行政処分に係る事案の情報提供について依頼した。

埼玉県保健医療部医療整備課長(以下「医療整備課長」という。)は、上記依頼を受けて、平成20年1月25日付けで、医事課長に対し、本件詐欺事件については原告本人に照会中である旨の情報提供をした。

医事課長は、平成20年9月16日付けで、各都道府県衛生主管部(局)長に対し、医療関係資格の行政処分に係る事案の情報提供について依頼した。

医療整備課長は、上記依頼を受けて、平成20年11月17日付けで、医事課長に対し、原告が仮出所予定である旨及び出所後の住所については原告の実兄に照会中である旨の情報提供をした。

医療整備課長は、上記依頼を受けて、平成20年12月1日付けで、再度、医事課長に対し、原告に係る行政処分対象事案の情報提供をした。

厚生労働省医政局医事課試験免許室免許登録係(以下「免許登録係」という。)は、平成21年11月13日付けで、柔道整復師名簿の管理を行う財団法人に、原告の免許についての資格確認を依頼した。

当該財団は、上記の依頼を受けて、平成21年11月16日付けで、免許登録係に対し、原告の資格照会に係る回答をした。

厚生労働大臣は、平成22年2月4日付けで、原告に対し、予定される不利益処分の内容を柔道整復師業務停止又は免許取消しとして、同年3月5日に聴聞を行う旨を通知した。厚生労働大臣から聴聞主宰者に指名された厚生労働省職員は、同日、原告に対する聴聞を実施し、同月9日、厚生労働大臣に対し、聴聞の結果を報告した。聴聞報告書には、処分に当たっては、反省している点について参酌願いたいとの意見が記載されていた。

厚生労働大臣は、平成22年5月20日、同年6月3日をもって原告の柔道整復師免許を取り消す旨の本件処分を決定するとともに、同年5月20日付けの本件処分の命令書を発付し、原告は、同月24日、同命令書の送達を受けた。同命令書には、処分の理由として、「平成▲年▲月▲日、東京高等裁判所において詐欺により○の刑に処せられ、柔道整復師法(昭和45年法律第19号)第4条第3号に該当することとなったため。」と記載されている。

原告は、平成22年5月27日、本件訴訟を提起した。

 2 争点及び裁判所の判断

争点1 本件処分の手続上の瑕疵の有無
【裁判所の判断】
本件処分に当たり、処分行政庁は、聴聞の手続を経ており、その手続に特に違法な点はない。

原告は、柔道整復師法8条1項に基づく行政処分について処分基準が作成されていないことが本件処分の手続上の瑕疵になると主張する。
しかし、同項に基づく行政処分は、不利益処分(行政手続法2条4号)であるから、同法上、当該処分に対する処分基準の策定及び公表は努力義務とされるにとどまるのであり(同法12条1項)、処分基準を策定していないことが行政手続法に反するということはできない。
原告は、柔道整復師法8条1項に基づく行政処分についての処分基準の策定が努力義務とされているとしても、これを策定しないことは不合理であるなどと主張するが、行政手続法12条1項が、同法5条1項と異なり、不利益処分における処分基準の策定を努力義務とした趣旨からすれば、不利益処分について処分基準が定められていないとして、特段の事情がない限り、処分の瑕疵をもたらすものではないと解されるところ、柔道整復師法8条1項に基づく行政処分は、柔道整復師が同法4条各号のいずれかの事由に該当するときにされるものであり(同法8条1項)、処分が行われる事由は広範にわたっていることからすれば、あらかじ処分基準を策定しておくことが必ずし適切ではないと考えられる上、同種の職業である医師、歯科医師、保健師、助産師及び看護師(以下「医師等」という。)について、処分基準は策定されておらず、ただ、行政処分に際して意見聴取を受ける医道審議会において、その意見を述べるに当たっての考え方を取りまとめたものが存在するにとどまり、しかも、その内容は考え方に幅を持たせた抽象的なものであることに照らせば、同項に基づく行政処分について処分基準が策定されていないことにつき、上記特段の事情がある又は不合理であるなどとはいい難い。

本件処分の通知書には、理由が付されていたが、原告は、この理由が行政手続法14条1項本文の理由付記として不十分なのであるから、本件処分には瑕疵がある旨主張する。
行政手続法14条1項本文が、不利益処分をする場合に同時にその理由を名宛人に示さなければならないとしているのは、名宛人に直接に義務を課し又はその権利を制限するという不利益処分の性質に鑑み、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解される。そして、同項本文に基づいてどの程度の理由を提示すべきかは、上記のような同項本文の趣旨に照らし、当該処分の根拠法令の規定内容、当該処分に係る処分基準の存否及び内容並びに公表の有無、当該処分の性質及び内容、当該処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮してこれを決定すべきである(最高裁平成21年(行ヒ)第91号同23年6月7日第三小法廷判決・裁判所時報1533号8頁)。
この見地に立って、柔道整復師法4条3号に該当したことを原因とする同法8条1項に基づく行政処分についてみると、同法4条3号の定める要件は明確であるし、この要件に該当したときに免許の取消し又は期間を定めた業務の停止のどの処分を行うかについては、処分行政庁の裁量に委ねられているところ、同法8条1項に基づく行政処分については、処分基準は定められておらず、また、医師等に対する処分については医道審議会が意見を述べるに当たっての考え方が取りまとめられているものの、その内容は抽象的なものである。
これらの事実関係を基に、本件処分に付された理由が行政手続法14条1項本文の理由付記として十分なものであるかどうかについて検討すると、本件処分には、処分の原因となった事実及びそれに適用されるべき法令の条項を明確に特定できる理由が付されているのであり、免許の取消しから一定期間の業務停止での比較的広い範囲を有する予定される処分から免許の取消しの処分が選択された理由についての記載はないのの、柔道整復師法8条1項に基づく行政処分については処分基準は定られておらず、医師等に対する処分について医道審議会が取りまとめている考え方も抽象的なものにとどることを考慮すれば、本件処分に付された理由が同項本文の趣旨に照らし、同項本文の要求する理由付記として十分でないとまではいえず、この点に関し、本件処分に瑕疵があるとまでいえるものではない。

以上によれば、本件処分に手続上の瑕疵があるとはいえない。

争点2  本件処分の裁量権の範囲の逸脱・濫用の有無
【裁判所の判断】
柔道整復師が柔道整復師法の規定に該当する場合に、免許を取り消し、又は柔道整復師としての業務の停止を命ずるかどうか、柔道整復師としての業務の停止を命ずるとしてその期間をどの程度にするかということは、当該刑事罰の対象となった行為の種類、性質、違法性の程度、動機、目的、影響のほか、当該柔道整復師の性格、処分歴、反省の程度等、諸般の事情を考慮し、同法8条1項の規定の趣旨に照らして判断すべきものであるところ、その判断は柔道整復師免許の免許権者である処分行政庁の合理的な裁量に委ねられているものと解するのが相当である。
それゆえ、処分行政庁がその裁量権の行使としてした柔道整復師としての免許を取り消す処分は、それが社会通念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして、違法とならないものというべきである(最高裁昭和61年(行ツ)第90号同63年7月1日第二小法廷判決・裁判集民事154号261頁、判例時報1342号68頁参照)。

本件詐欺事件は、実際には行っていない柔道整復施術を行ったものと装い、自動車保険会社から柔道整復施術療養費を詐取した事案であり、原告が柔道整復師という立場を利用して行ったものである上、原告は、起訴された分だけで、平成16年6月から平成17年3月までの約10か月間という長期間に、合計15回にわたり、金員の詐取を行い、その金額は合計194万円余りであることが認められ、その犯行は重大なものといわざるを得ない。

原告は、本件処分が本件詐欺事件から5年後であったことも重視すべきであると主張するが、原告が本件詐欺事件の犯行後刑事裁判を受けるに至るまでに期間を要したのは、単に原告の犯行が捜査機関に発覚しなかったからにすぎず、その後不正行為に一切関わっていないことも当然のことであり、原告が接骨院を閉めたのも暴力団関係者等に脅されたことによるものであり、必ずしも原告の自発的な意思によるものではないのであるから、これらの事情が本件処分に当たり特段考慮すべきものであるとはいえない。

原告は、本件詐欺事件が暴力団関係者の巻き込み行為により起こされるなどしんしゃくすべき事情が存在すると主張する。確かに、原告が本件詐欺事件を起こしたのは、暴力団関係者に持ち掛けられたことがきっかけであり、その後当該暴力団関係者から犯行を続けることを要求されたこともあったことが認められ、この点は、原告が犯行を主導したものとは必ずしもいえないという点で本件詐欺事件の情状に影響を与える事情であり、その限度で原告に対する処分を決定する際に考慮すべき事情であるということができる。しかし、原告が当初保険金の詐取を持ち掛けられたときは、自らの利益を図る目的もあってそれを承諾したものであること、1回目の犯行の後に脅迫的な言辞を受けたとしても、その際に警察に相談するなどして更なる犯行を止めることはできたはずであることからすれば、この点をもって、上記の程度を超えて特にしんしゃくすべき事情であるとまではいい難い。

本件処分に当たって考慮すべき事情を総合的に考慮すると、原告が反省の意を表していること、仮釈放後真面目に勤務していること、破産手続を執っていることなど原告の主張する原告に有利な点を十分考慮に入れても、本件処分が処分行政庁に与えられた裁量権の範囲を逸脱し、又は濫用してされたものであるとまでいうことはできない。

 3 判決:結論

主文:原告の請求を棄却する。

本件処分は適法というべきである。よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民訴法61条を適用して主文のとおり判決する。


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 柔道整復師の行政処分への対応

1 柔道整復師の免許取り消し、免許停止、業務停止の行政処分

 柔道整復師の免許取消、業務停止の判例

1 免許取消・業務停止の判例(1):暴力団との不正請求の免許取消し

2 免許取消・業務停止の判例(2):柔道整復師免許取消しの取消訴訟

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