柔道整復師の行政処分に強い、弁護士の鈴木陽介です。
行政処分への対応は、弁護士に依頼すべきです。
ここでは、柔道整復師の免許取消処分となったケースでの、当該免許取消処分の取消請求事件の控訴審の判例(平成24年1月18日東京高等裁判所の判決)のご説明をします。説明のため、事案の簡略化等をしています。
柔道整復師の免許取り消し、業務停止については、以下のコラムもご覧いただければ幸いです。
【コラム】柔道整復師の免許取り消し、免許停止、業務停止の行政処分
柔道整復師免許取消の取消訴訟の控訴審判例
1 事案の概要
柔道整復師の免許を有し、その業務を行ってきた控訴人が、懲役刑を理由として柔道整復師法8条1項に基づき柔道整復師の免許を取り消す旨の処分(以下「本件処分」といいます。)を受けたことに対し、同条項に基づく行政処分について処分基準が設けられておらず、本件処分の理由付記に不備があるなど、本件処分には重大な手続的瑕疵が存在するとともに、本件処分は控訴人が懲役刑に処せられた本件詐欺事件に至った経緯、処分時における控訴人の生活状況等、考慮すべき事項を考慮せず、比例原則違反の判断をしたものであるなど裁量権の範囲の逸脱があると主張して、本件処分の取消しを求めた事案の控訴審です。
事案の概要は、原審の判例を紹介したコラム「免許取消・業務停止の判例(1):暴力団との不正請求での免許取り消し」に記載したとおりです。
【コメント】
資格に係る行政処分について国・行政を相手に訴訟をするケースでは、勝訴判決を得ることは一般論としては非常に高いハードルがあるとのイメージです。敗訴した地方裁判所の判決に控訴し高等裁判所であらためて審理・判断を求めた場合でも、あくまで一般論ですが、高等裁判所で国・行政側が不利に判決が変更される可能性は低いものと想定すべきです。
2 争点及び裁判所の判断
争点1 手続上の瑕疵の有無
【裁判所の判断】
行政手続法12条1項は、不利益処分について、処分基準を定め公にすることを努力義務とし、また医師等についても、処分基準は策定・公表されていないが、このことから直ちに、柔道整復師法8条1項に基づく処分につき処分基準を策定・公表する必要がないといえない。
しかしながら、控訴人は柔道整復師法4条3号(罰金以上の刑に処せられた者)に該当したことを理由として免許取消処分を受けたものであるところ、上記条項の定める要件自体は一義的で明確であり、その適用基準を設ける要はないものである。他方、この要件に該当したときに、同法8条1項に基づき、免許の取消し又は期間を定めた業務の停止のどの処分を行うかの判断は、当該刑事罰の対象となった行為の種類、性質、違法性の程度、動機、目的、影響のほか、当該柔道整復師の性格、処分歴、反省の程度等、諸般の事情を総合考慮して判断されるべきものであり、処分行政庁の合理的な裁量に委ねられているが、その処分の基準は、処分が行われる事由が広範にわたり、判断要素も多岐に及ぶことからすると、あらかじめ画一的な基準を定めることは困難であり、また必ずしも適切であり必要であるということもできない。
行政手続法12条1項は、このような観点も踏まえて、不利益処分の処分基準の策定及び公表について、一律にこれを法的義務とはせず、努力義務とするにとどめているのであり、医師等について処分基準が策定されておらず、医道審議会の「医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方」等も抽象的なものにとどまっているのも、同様の理由によるものと解される。そうすると、柔道整復師法8条1項に基づく処分について、その処分基準が策定・公表されていないこと自体は、本件処分に瑕疵をもたらすものではないというべきである。
【コメント】
高等裁判所は、柔道整復師法8条1項に基づく処分について、処分基準が策定・公表されていないことは、本件の行政処分に瑕疵をもたらさないと判断しました。
また、本件処分においては、控訴人が本件詐欺事件により懲役刑に処せられ同法4条3号に該当したことが理由として付記されている以上、上記諸般の事情を考慮して行われる処分の選択に係る理由についてはこれを控訴人において推測することが可能な範囲にあり、不服の申立てに困難を来すとまでいうことはできないから、その裁量的判断に係る個別具体的な理由が付されていなくとも、理由の付記に不備はないというべきである。必要とされる理由付記の程度につき最高裁平成23年6月7日第三小法廷判決が判示した一般的基準を本件に当てはめれば、本件処分における理由付記に不備があるということのできないことは、原判決説示のとおりであり、柔道整復師法8条1項に基づく処分について処分基準が定められていないことから、直ちに理由付記について抽象的な記載で足りるとするものではない。
【コメント】
高等裁判所は、本件の行政処分での理由の付記に不備はないと判断しています。
その他、告知聴聞手続を含む本件処分の手続全体をみても、本件処分に手続上の瑕疵があるとは認められない。
争点2 裁量権の範囲の逸脱の有無 【裁判所の判断】
柔道整復師が柔道整復師法4条3号に該当する場合に、免許を取り消し、又は柔道整復師としての業務の停止を命ずるかどうか、業務の停止を命ずるとしてその期間をどの程度にするかということは、処分行政庁が、裁量権の行使として、上記の諸般の事情を考慮して判断すべきものであり、処分行政庁が裁量権の行使としてした柔道整復師としての免許を取り消す処分は、それが社会通念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして、これを違法であるということはできない。
控訴人は、本件処分は、控訴人が刑事手続において実刑判決を受けたことの一事をもって免許取消処分を行ったものであり、罪自体の悪質さ反省状況、処分時までの変化等について他の処分事例と比較すれば、本件処分は平等原則に違背しており、裁量権の範囲の逸脱がある旨主張する。
しかし、本件詐欺事件は、控訴人が柔道整復師の免許を有する立場を利用して行ったものである上、約10か月の間に合計15回にわたり同様の犯行を繰り返したものであることを考慮すれば、詐取した金額の合計は他の事例と比較して多くはないとしても、このことを理由に相当重い処分が行われてしかるべき性質のものであって、控訴人が、本件詐欺事件後反省の意を表し、本件処分時には柔道整復師の資格を生かした仕事に従事して真面目に勤務していることなど控訴人の主張する有利な事情を十分考慮しても、また、これらの情状につき他の処分事例より有利な事情があったとしても、本件処分が社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を逸脱するものであるとまでいうことはできない。他の処分事例との比較において本件処分が過度に重く不相当であるとまでいえないことは、原判決の説示するとおりであり、被処分者の受けた刑が実刑か執行猶予かという点は、罪責の軽重、柔道整復師としての品位についての評価を表すものとして重要な要素ではあるが、これのみを比較して判断しているものではない。
【コメント】
高等裁判所は、本件の行政処分について、本件の事実関係に言及しつつも、行政の裁量権の範囲内の処分であると判断しています。
3 判決:結論
主文:本件控訴を棄却する。
本件控訴は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。
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柔道整復師の行政処分への対応
1
柔道整復師の免許取り消し、業務停止の行政処分
柔道整復師の免許取消、業務停止の判例
1
免許取消・業務停止の判例(1):暴力団との不正請求の免許取消し
2
免許取消・業務停止の判例(2):柔道整復師免許取消しの取消訴訟